インプラント治療の欠点・リスクには、大きく

(1)外科手術に伴うもの

(2)治療費

(3)新たな疾患「インプラント歯周炎」罹患の可能性

があります。

以下、説明いたします。

(1) 外科手術に伴うもの

・・・これには、動静脈の損傷、神経麻痺、副鼻腔炎などがあります。
ここでは、部位ごとのリスクについて記載していきます。

1.上顎埋入時のリスク

翼突筋静脈叢の損傷

上顎臼歯部は歯槽骨の吸収でインプラント埋入の骨量が不足していることが良くあります。その際サイナスリフトを行わずに臼後結節に埋入することがあります。臼後結節はその後ろに翼突筋静脈叢があり埋入は慎重におこなわなければなりません。CTで骨の形状を把握して、絶対に後方に穿孔させないようにします。

大口蓋動脈の損傷

大臼歯部内方にあるかなり太い動脈で損傷させると止血させるのが大変です。無歯顎の場合位置がわかり辛く、剥離やドリリングの際注意します。CTであらかじめ位置を確認しておきます。

大口蓋動脈の損傷

大臼歯部内方にあるかなり太い動脈で損傷させると止血させるのが大変です。無歯顎の場合位置がわかり辛く、剥離やドリリングの際注意します。CTであらかじめ位置を確認しておきます。

鼻涙管の損傷

眼窩内側前縁から下鼻道に開口します。鼻涙管はやや後下方へ向かうためインプラントと接触することはまれです。犬歯部鼻腔と眼窩部の狭い骨の間に深く埋入しようとするとおきることがあります。損傷すると涙目になってしまいます。この部分はあまり深く埋入させません。

上顎洞 鼻腔などの粘膜の損傷と副鼻腔炎

骨膜や上顎洞粘膜は骨再生能力があるので、上顎頬側粘膜 鼻腔粘膜 上顎洞底粘膜などを損傷すると上顎洞などの副鼻腔炎になることがあります。損傷自体が即、副鼻腔炎にはなりませんが、そこに感染が起こると副鼻腔炎になってしまいます。服鼻腔はいくつかあるのですが、それらはつながっており、前頭洞などは脳にも近いため、副鼻腔炎を軽視することはできません。

切歯管(口蓋部前方)の損傷

口蓋部前方に分布している神経が切歯管より出ていますので、上顎前歯部にインプラントを埋入するさい気になるところです。この部分は損傷させて問題となるほどの麻痺はでないとされています。 インプラントがその部分にふれるようですと骨と結合しないわけですので、ラウンドバーで切歯管の深い位置で鼻口蓋神経を切断して骨補填材を入れたほうが良いとされています。わたしの経験でも問題は生じませんでした。

下顎埋入時のリスク

オトガイ下動脈 舌下動脈の損傷

下顎にインプラントを埋入しようとして舌側に穿孔することは非常に危険です。 臼歯部での穿孔によりオトガイ下動脈 舌下動脈を損傷することがあります。 ドリルによる血管の切断は、ナイフなどによるものと違い、ゴムのチューブを引きちぎるように切断します。切断された血管は伸びたゴム管が縮まるように切断箇所から離れて出血します。10cm離れていたケースもあります。一般開業医では止血は不可能と考えたほうが良いです。口腔外科の専門医でも出血箇所を見つけるのに1時間かかったケースもあります。オトガイ下動脈 舌下動脈はそれほど太い動脈ではないので失血死することはありませんが、口腔底が膨れ上がり呼吸困難におちいり窒息死する可能性があります。動脈を損傷させたとおもった場合は口腔底を圧迫して、急いで救急車で専門医のいる病院に搬送します。ドリリング時の下顎舌側への穿孔は非常に危険です。その意味でも 骨の形態をあらかじめCTで知っておくことはとても有利なことです。また、それに備えた手術計画がとても大切です。(歯ぐきを剥がすならば大きく確実に行う事が大切です。)

舌神経の切断

舌神経が最後臼歯の歯槽頂付近に位置することがまれではありません。最後臼歯部の切開線は頬側よりにいれ決して横の切開線をいれてはいけません。切開は頬側よりの縦切開です。切断したら分布領域に麻痺がでます。

下歯槽神経の損傷

下歯槽神経の麻痺は8番(親知らず)を抜歯したり伝達麻酔をした場合に現れることがあり、歯科ではよく遭遇する麻痺です。インプラント埋入の際の損傷は直接ドリルによって損傷を与えるケースと神経には直接触れていなくても骨をけずるときに神経が圧迫され1時的に麻痺がでるケースがあります。一旦麻痺がでてしまうと、確実にそれを治す治療はないため、数ヶ月麻痺が続いたり、最悪の場合、一生麻痺がとれないこともあります。

(2)治療費

インプラントは健康保険外の自費診療のため、治療費はどうしても高額化します。
しかし、きちんと行ったインプラント治療は非常に長持ちであることから、治療時の支払いは高額になるものの、長持ちすることで結局、使用できた期間に対する治療費は他の治療に比べ、極端に高くならない可能性もあります。

→治療費についてはこちらをご覧ください

(3) 新たな疾患「インプラント歯周炎」罹患の可能性

インプラントはむし歯にならないものの、歯でいう歯周病、つまり、インプラントを支えている骨が溶けるインプラント周囲炎にはなりえます。

インプラント周囲炎になったインプラントを確実に治す治療法はまだ、世界的にも確立されていません。
従って、インプラント周囲炎を起こさない、つまり、予防することが極めて大切です。

具体的には、

  1. 歯周病のある患者さんは歯周病の治療をしてからインプラント治療を受ける。インプラント周囲炎の原因細菌は、その人の天然歯の歯周病細菌が伝播してくることがわかっています。
  2.  治療後のおうちでのお手入れや、診療所でのメインテナンス(定期的なチェックとクリーニング)を可能な限り続ける。
    こうしたメインテナンス治療は、天然歯の寿命を延ばすことにもつながります。噛む機能が維持された高齢者は、そうでない方に比べ、高齢期の生活の質が極めて高いことが数々の研究でわかっています。
    従って、当院では、全ての患者さんにメインテナンスの大切さをご説明し、責任を持ってメインテナンスできるよう、患者さん一人ひとりに担当の(専任の)歯科衛生士がつく担当歯科衛生士制を引いています。
    こうした体制の中、1年間に約4000人の患者さんがメンテナンスに当院を利用しています。

ただし、こうしたメインテナンスを続けていてもインプラント周囲炎になってしまうという以下の文献を紹介いたします。
ですから、メインテナンスだけでなく、ブラッシングなどのご家庭でのお手入れも大切ですね。

インプラント歯周炎の発生は、いままでの抜歯の原因が、慢性歯周炎だったか、それ以外(むし歯・破折・根尖病変など)の理由かにより大きく影響を受けます。
Long-term implant prognosis in patients with and without a History of chronic periodontitis: a 10-year prospective cohort study of the ITI Dental System.
Karoussis lk et al. Clin Oral Impl Res,2003;14:329-39によれば、
10年後のインプラント歯周炎の累積発生率は、それぞれ28.6%
5.8%となっております。従って、歯周病の患者さんではまず歯周病を治療してからインプラント治療となりますし、術後管理もより厳密なプラークコントロールが必要となります。

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